1 プロローグ
「もうっ!なんでわからないの!」
「・・・だって~。」
「『だって』じゃないっ!
お母さんの言うこと聞かない子は、今日は夕ご飯もなしっ!!!」
あぁもうイライラする。
娘の泣く声で、頭が痛い。
今日も帰りの遅い夫。
散らかった部屋。
子育てってもっと楽しいものだと思ってた。
・・・それとも私が、人としてどこかおかしいのかな。
私ってやっぱり、ダメな母親なのかな。
私、佐藤 智恵子。34歳。
それなりに勉強も頑張った学生時代、
それなりに楽しい仕事をしていた独身時代。
夫とそれなりに幸せな結婚。
そして、
ユイが生まれた。
小さいころから、
頑張れば頑張るほど、幸せになれると思ってたし、
頑張った分、結果はついてきた。
でも私は今、
出口の見えないゴミの山のような部屋で
怪獣の叫び声のような娘の泣き声を聞きながら、
途方に暮れている。
2 コーチングと出会う
「今日も、ユイちゃんと買い物行って、大変だったのよ」
ユイが寝た後、帰ってきた夫に話をしてみる。
「お菓子売り場でひっくりかえっちゃって。
結局買ってあげるまで、泣き叫んでね。
もうどうしたらいいんだか」
「まだ4歳なんだから。親がしっかりしてやらなきゃいけないだろ。
そもそも周りに人がいるのに引っくり返って泣くなんてみっともない。
そういう時は、親として毅然とした態度で・・・」
夫に話をするたびに、実はちょっと、後悔する。
辛かった気持ちを吐き出すと、
それ以上に胸が苦しくなるような『お説教』が返ってくるから。
夫は静かに話してるけど、
だんだんイライラしはじめてるのがわかる。
「そうね。ごめんなさい・・・」
なんとか笑顔を作って、私はその場から逃げた。
結局、味方はいないんだ。
毎日毎日の、重苦しい気分。
なんでこの子は、ちゃんと私の言うことを聞かないんだろう。
なんでいつも、喧嘩になっちゃうんだろう。
私がイライラするから、子どもにもいい影響があるわけない。
わかってはいるけれど・・・。
そんな堂々めぐりが続いていたある日のことだった。
とあるサイトで『マザーズコーチング』に出会ったのは。
3 藁にもすがる思いで体験セッション
「コーチング?それをしたら、子どもが聞き分けてくれるようになるだろうか?」
聞き慣れない「コーチング」という言葉に、
ちょっと興味を惹かれる。
コーチっていえば、あれよね。
例えば、野球とか、
例えば、フィギュアスケートとかで、選手を指導する人。
優秀な選手になるためには、優秀なコーチがいるってのは
私でもわかる。
指導する私がダメは母親だから、
ユイもダメな子なのかな。
でも私だって、
子どもを指導する練習なんて、やったことない。
本当は、そんな風に、
上手に指導する方法があるってことなら、
やってみたい。
私は、興味本位で、
でも、藁にもすがるような思いで、
マザーズコーチと体験セッションをすることになった。
4 初セッション
セッション、というのは
「話をする」ものらしい。
電話を握りしめながら、
私は不安いっぱいだった。
何を教えてもらえるんだろう。
子育てのやり方、怒られたりするのかな。
でも、ユイのためだもん。
私が頑張らなきゃいけないのよね。
ドキドキしながら電話番号を押す。
呼び出し音を聞きながら、ちょっと逃げたくなる。
「こんにちは。お待ちしてました。
今日は寒かったですね。」
明るくて優しい声。
しばらく、普通の会話。
すぐに何か質問されたり、
育児の指導があると思ってた私は、
少し拍子抜けだったりした。
あれ?指導しないの?
私のダメなところを指摘したり、怒ったりしないの?
「子どもが全然言うことをきかないんです。
夫も全然協力的にしてくれないし・・・」
私はしばらく話をしているうちに、
気がつけば、自分の不満をどんどんぶちまけてしまっていた。
優しく聞いてくれる電話の声。
「それはこうしたらいいですよ」なんて指導があるんじゃなくて、
私に気持ちよく、話をさせてくれる。
あぁ聞いてもらえるだけで、こんなに気持ちが楽になるんだ。
考えてみたら、私は誰にも聞いてもらえてなかった。
夫にも、親にも、友達にも、
どこにも「助けて」なんて言えてなかった。
自分一人で抱え込まなきゃいけなくて、
どんどん息苦しくなっていって。
でも、コーチは優しく聞いてくれる。
そして時々、思いもよらない質問をしてくる。
「子どもさんがワガママを言う時、佐藤さんはどんな気持ちになりますか?」
コーチが聞く。
「イライラして、腹が立って・・・そういえば、悲しい気持ちになります」
と、私。
「悲しい気持ちって、どんな理由からきているように思いますか?」
「娘はどうして聞いてくれないんだろう、とか、
私はダメな母親だと言われている気分になったりとか、
私はずっと我慢してるのにと思ったりとか・・・」
返事をしながら、自分が一番驚いてる。
私、そんなことを思ってたんだ。
もしかしたら、問題なのは、子どもじゃなくて、
私の中に、何かあるのかな?
私がまだわかってない何か、
それをちゃんと見たら、
この毎日が、変わったりするんじゃないかな。
今まで考えたこともなかったことをたくさん考えて、
なんだかぼんやりしている私。
でもなんだか、目の前が少し開けた気分になって、体験セッションの時間は終わった。
ほんの30分くらいだったのに、
ものすごく時間が経ったような気分。
人に愚痴を言うよりもずっと、
濃密な時間だった。
ダメな子だと思っていた、ユイのこと。
そうじゃなくて、私が変われば、
何か変化するのかもしれない。
生まれ変わりたい。
ユイのために。
私のために。
5 コーチングを開始する
数日後、私は3ヶ月間のコーチングを開始することに決めた。
体験セッションと同じコーチだけど、
セッションの仕方は、前やった電話とはちょっと違う。
zoom(ズーム)っていうものを使って、
話をすることにしたんだ。
このズーム、
スマホからでも使える、テレビ電話システムらしい。
パソコンじゃなくても大丈夫で、
電話代もかからないというから、それにしたんだけど、
私、機械の操作はとっても苦手で、
まずはこれが心配で・・・。
でも、一発でうまくいってびっくり。
だって、スマホにアプリを入れておいて、
メールで送られてきたURLをクリックするだけなんだもん。
これだけ簡単にできることだけど、
今までやったことないことに挑戦するだけで、
なんだかちょっと、「できる女性」になった気分になれる。
なかなか安上がりなのね、私。
予定の時間になって、セッションのURLをクリックする。
スマホの画面に、コーチの笑顔が写った。
「こんにちは。お元気そうですね。
あれ、緊張してますか?」
ニコニコ笑いながら話すコーチに、私は答える。
「・・・今日からよろしくお願いしますっ!」
コーチングは、最低でも3ヶ月は受けてみたほうがいいらしい。
変化をするのには、時間がかかるということなのかしら。
まずはコーチと話しながら、
この3ヶ月の『ゴール』を決める。
『穏やかな気持ちで育児ができるようになること』。
それが私の望むゴールだった。
今の毎日から考えたら、途方もないほど遠く感じるゴールけど、
このままダメな母親で終わりたくない。
コーチングで私は、生まれ変われるだろうか。
セッションでは、今日もいろんな話をする。
話をしている間に気がついたのは、
それは、私が毎日を、とても不機嫌にすごしていることだった。
子どものこと、
夫のこと、
家事のこと、
いろんなことを見てイライラして、全然毎日を楽しく過ごせてない。
「毎日大変ですものね」
コーチはそう言ってくれたけれど、
どうやったらこの大変ないろんなものを、解決できるんだろう。
「じゃあ、佐藤さんって
どんなことをしたら、幸せな気分になりますか?」
どんな時?・・・え?
ユイが言うことを聞いてくれたら。
夫が協力してくれたら・・・。
そうなれば、幸せな気持ちになるかな。
・・・うーん・・・ちょっと違う気がする。
「例えば、音楽を聞くとか、
一人でカフェでお茶を飲むとかでもいいですよ。
寝てしまうって方法もありますよね」
そんな楽しみ方・・・。思いつかなかった。
「おいしいものを食べるとか、かなぁ・・・」
「他には何がありますか?」
「ゆっくり寝たら、元気になれるような気もしますけど・・・。
ちょっと次のときまで考えさせてください」
「そうですね。
じゃあ、佐藤さんがご機嫌になれる、『ご機嫌の引き出し』、
探してみてくださいね」
なんだか少し元気になった気分と、
「それが何の役に立つんだろう?」って気持ちが混じって
今日のセッションは終わった。
ご機嫌の引き出し、か。
何があるだろう。
6 ご機嫌の引き出し
とにかく、自分がご機嫌になるものを、考えてみる。
そういえば、もう何年も自分だけのことを考えることなんてなかった。
ユイが生まれる前は、何が好きだったっけ?
オシャレして、夜の街を歩いて、美味しいものを食べたり、
みんなで飲み会したり、
ゆっくり本を読んだり・・・?
「あ・・・!」
慌てて押入れの中をひっかきまわす。
そして見つけた、
埃をかぶったアロマランプ。
「そうだった。私・・・」
アロマテラピーが大好きで、
毎日いろんな香りに包まれて生活してたんだった。
ユイが生まれてからは、それどころじゃなくなっちゃったけど。
「さすがにもう、精油も古くなっちゃったよな・・・」
すぐ使うつもりで片付けていた精油は、
もう何年も、存在を忘れ去られていた。
その存在が、
自分の楽しみを忘れ去っていた私自身のようで。
なんだか愛おしくなったアロマランプを綺麗に拭いた後、
私はラベンダーの精油を買ってくることにした。
久しぶりに香る、ラベンダーの香り。
「お母さん、お部屋がいい匂い~!」
早速見つけたユイが、喜んでる。
今日はユイを怒らないですみそう。
ご機嫌の引き出し、結構効果があるかもしれない。
7 しっかり「きく」ことの大切さに気づく
「本当に、かなりたくさんの『ご機嫌の引き出し』があったんです!」
次のセッションでは、最初からウキウキと話している私がいた。
旅行をしてみる予定を話してみたり、
子どもと一緒に習い事をしてみたりする計画をしてみたり。
楽しいことをやっていると、子どもにも少し優しくできるし、
楽しいことを想像して話をするだけでもご機嫌でいられる。
前よりはちょっと、
「穏やかな育児」に近づいてるような気はする。
でも・・・。
「昨日も娘と喧嘩しちゃったんです」
「どんな感じだったんですか?」
「もう、駄々をこねまくって私がものすごく怒って、ユイが泣いての
いつものことで・・・」
私は昨日のことを、コーチに話す。
「じゃあ、ユイちゃんと佐藤さんの会話を
できるだけ思い出していただけますか?」
「え?・・・会話?」
あれ?あれ?
私、どんな会話をしたっけ?
イライラした感じとか、
ユイが全然言うことを聞いてくれない感じとか、
そんなのは思い出せるのに、
どんな話をしたのかがほとんど思い出せない。
「ママは私の話を全然聞いてくれないっ!」って
昨日、ユイが叫んでたけど、
・・・そうか、本当に聞いてなかったんだ。
感情に任せて怒ってたのは、私だったのね。
ユイは話を聞いてもらえてない気持ちで
いっぱいだったのか。
「佐藤さんは、どんな感じで聞いてもらったら
『話を聞いてもらえたな』と思えますか?」
そう、コーチと話している時のように・・・。
何を言っても受け入れてもらえるような、
全部話をさせてもらってスッキリするような・・・。
そんなこと、全然できてないじゃない、私。
コーチングで、コーチに話を聞いてもらってて、
どういうことが「話を聴いてもらう」ってことなのか、
やっとわかった気がする。
でも、今やっと知ったんだから
やっと気づけたんだから。
やってみよう。
ちゃんと「聴く」こと。
8 嬉しい変化と変化の不安
セッションが終わってから
私のユイとの接し方が少し、変わってきた。
ちゃんと話を聴こう、って思ってるのももちろんだけど
ユイが駄々をこねたり、
イライラしたりする時に、
「今度のセッションで、コーチにこれを話そう」とか
「私、どんな感じで聞いてるかな」なんて思ったら
カッとした気持ちがずいぶん消えることに気づいた。
いつもコーチが、そばで見守っててくれるような感覚もある。
客観的に自分が見られるのって、
こんなに冷静に子どもを見られるのね。
そして私は順調に、新しい「ご機嫌の引き出し』を見つけだしていた。
欲しいとも気づいてなかった鞄を買ってみたり、
気になってたテレビ番組を録画してみたりした。
なんだか欲望がどんどん増えてくるみたい。
楽しい反面、ちょっと不安になってしまう。
こんなに自分のやりたいことばっかり考えて、いいの?
自分のやりたいことばっかりで、
家族に迷惑をかけるようになっちゃうんじゃないかしら。
そのうち、ブランドもののバッグとかが
どうしても欲しくなっちゃったり、しない?
そんな不安を、私は次のセッションでコーチにぶつけてみた。
「欲望のタガが外れちゃうんじゃないか、っていう
不安があるんですね」
せっかく言ってくれたのに、怒られちゃうかしら。
そんな不安も、ちょっと顔を出す。
でも、コーチの声は相変わらず優しかった。
「ここしばらく、佐藤さんはいろんなご機嫌の引き出しを探していらっしゃいましたが、
佐藤さんは、どんなふうになりましたか?」
「ええと・・・、とにかくワクワクしたんです。
なんか、前よりユイにも優しくなれました。
そのせいか、ユイも機嫌がいい日が増えてる気がするし・・・」
「じゃあどんな時に、欲望のタガが外れちゃうと思いますか?」
「お金がたくさんある時とか、かな。
これやってもいいよ、って言われた時もそうだと思うんですけど・・・」
ここまで言って、ふと気がついた。
あれ?私普段から、「買ってもいいよ」って言われても、
買わないようにしているのはなんでだっけ?
「今気がつきました。私いつも、
買っていいって言われても買えないんです」
コーチと話しながら思いつく。
私、買い物をしたり、自分の好きなことをしたりすると罪悪感があるんだ。
「自分では、どうしてそんな風に感じるんだと思いますか?」
考えたこともなかった。
なんでだろう?
今まで考えたこともない視点から自分を眺めている気がする。
たどり着いたのは、
小さい頃の、自分と親との関係、だった。
9 母と私の関係
小さい頃から私は、我慢をしていることが多かったような気がする。
どうしたら褒められるんだろう、って思って、
親に、もっと自分のことをみて欲しいと思って。
でも、その願望はみたされることはなく、
いつも母は大変そうにしていて、
要領のいい妹はいつもかわいがられて、
姉の私は、いつも寂しい思いを抱え続けていたっけ。
「その時は、どんな気持ちでいたんですか?」
寂しくって、
我慢しなきゃいけなくって、
自分がいい子じゃないから、
お母さんは自分を見てくれないと思っていて・・・。
「今の佐藤さんの気持ちと、それはつながっていますか?」
「・・・!」
子どもが私のいうことを聞かなくって寂しくなる思いとか、
それでも我慢しなきゃって思いとか、
私が悪い子だからって気持ちとか、
妹が自分の好きなようにできててイライラする気持ちとか。
結局それは、昔も今も、
相手が変わっただけで、全然変わってないんだ。
なんだ、全然成長していないのね、私って。
「今の佐藤さんなら、変える事ができますよね。
どう変わって行きたいですか?」
そうだ。
私は変われるんだ。
小さくて、何もできなくてこっそり泣いてた
小さい頃の私ではなくなってるんだもん。
自分で選ぶ事ができるようになってるんだ。
その後のセッションは、
「あんなことをしたい、こんなことをしよう」と
コーチとものすごく盛り上がって終わった。
こんなに楽しく話をしたの、久しぶり。
小さい子どもの頃の、
責任もなく、ただ夢を語って、という頃の、
ワクワクした感じを思い出していた。
10 夢をみる
小さい頃は、将来の夢を語るのが楽しかった。
その「夢」は、
いつの間にか、語ってはいけないものになってたんだ。
「夢みたいなこと言って」
「もっと現実を見ろ」
そんな言葉が自分の中で渦巻いて、
気がつけば、
将来のことを考える、というのは、
「悪いことに備える」ってことになってしまってた。
でも、コーチと話していたら、
私も新しく、「夢」をみてもいいと思えてくる。
「佐藤さんならできますよ」
コーチがそう言ってくれるたびに、
今までしぼんでた気持ちがどんどん膨らむのがわかる。
何より、
私以上にコーチが、
その実現を信じてくれるのが一番嬉しい。
子どもの頃と違うのは、
ただ「語る」だけじゃなくて、
コーチと一緒に目標をしっかり見えるようにして、
そこにたどり着くための方法も一緒に考えて、
毎回のセッションで、進み具合を一緒にみてもらえること。
マラソンで、コーチが伴走してくれてるみたい。
私ももっと、できることをやっていきたい。
私にしかできないことをやってみたい。
新しく「夢」、見てもいいかな。
11 気分が変わって捉え方が変わる
コーチングを始めて数ヶ月。
なんだか毎日が新鮮で、
楽しくなってきた。
状況は変わってないはずだけど、
私の捉え方が違う、というか。
うん。私、成長してるぞ!
小さくにんまりしてしまう私。
そこにユイがそっと出てきて、
ちょっと慌てた。
「ど、どうしたの?」
「ママ、こぼしちゃった・・・」
食卓を見ると、派手にこぼれた牛乳。
ビシャビシャになっているマット。
そのまま窓に目をやると、
今日も降り続いてる雨。
うわぁ・・・。
「コップ割れて怪我しなかった?
仕方ない。洗濯も溜まってるし、
今日は一緒にコインランドリー行こうか!」
怒られると思っていたらしいユイが、目を丸くしてる。
実は自分でもちょっと、びっくりした。
前だったら、ものすごく怒り続けてたはず。
「どうしてこんな日にこぼすの!」
「牛乳のにおいって取れないのよ!」
怒り狂う自分と、泣き叫ぶユイの顔が想像できて、
ちょっと笑える。
「じゃあ、まずできることからやっていこう。
最初は雑巾かな」
ちょっと捉え方が変わるだけで、
こんなにも気持ちが変わるんだ。
「ママ、ユイがお洗濯持ってあげるね!」
コインランドリーに向かう道で、
ユイの成長に気づいたりして、
昔だったら「最悪の一日」と思っていたであろう日は、
「最高の一日」に変化していた。
12 夫も変わってきた
コーチングを始めて
もう一つ、変わったことがある。
それは、夫との関係。
この人はわかってくれないんだと、ずっと思っていたけれど、
伝わりやすい伝え方、というのがわからなかっただけだったみたい。
ユイにやるように、話をしっかり聞いて、
夫にちゃんと伝わる伝え方をしたら、
すごく協力的になってくれている。
これも驚いた変化の一つ。
「いつもありがとうな」
そんな言葉を聞きながら、ユイを二人で見る。
穏やかな気持ち。
これが欲しかったものだった。
今、私には
ユイが言うことを聞いてくれても
時々は言うことを聞いてくれなくなっても、
大丈夫、という穏やかな自信がある。
昔の私は
どうやったら正解の育児ができるんだろう、と
ものすごく切羽詰まった気持ちでいた。
今は、
子どもがどんな状態でもどうにかできると思える。
自分が何かに迷っても大丈夫とまで思える。
あんなに憧れていて、
あんなに届かないと思っていた現実が
今目の前に広がってる。
エピローグ そして、私の夢へ
もっともっと、という欲望があふれてしまうんじゃないかという心配は、
違う方向で、当たった。
自分のことをもっと知って、
自分の好きなことに、たくさん気づいていったら
もっともっと、自分を生かしたい気持ちがあふれてきたんだ。
コーチングを受けながら、
私は私の「他の人にはない強み」を知った。
それは、
人の気持ちを察知することができる力。
人の感情に気づくことができる力。
それに巻き込まれてイライラしちゃっていたけれど、
実はそれを「強み」にできることも
コーチングを通じて知った。
知るだけじゃなくて、行動できるようにもなってきた。
なんと、私自身が
マザーズコーチとして活動するために、
資格を取れるよう、学び始めたんだ。
今はコーチと一緒に、
子育てのこと、
自分の心の土台作りのこと、
いろんなことを、体系だてて学んでいる。
「私なんかにできるわけない」って
すぐに諦めていた自分が嘘みたい。
私のように悩んでいる人を、癒したい。
たくさん悩んだ私だからこそ、できるかもしれない。
今まで学んだいろんな知識も経験も、役立てられるかもしれない。
そのために動き出す力が、湧いてくる。
「コーチは、その人が望む場所へ早くたどり着けるための
お手伝いをするんですよ」
コーチが話していたけれど、確かにそう。
私が別人になったわけじゃない。
昔の私が死んで、生まれ変わったわけじゃない。
私自身の中に元々あって、埋もれていたものを、見つけ出せただけ。
私がたどり着きたい場所を見つけて
たどり着きたい場所への道を探して
そこまで行く勇気と元気をもらって。
コーチにそんなお手伝いをしてもらえて、
ちょっと前には信じられないくらいの行動力で
目標に向かって走り出せるようになった。
動くのは、私自身。
でも、コーチという後ろ盾を得て
私は安心して、全力を出すことができる。
私は、もっと欲望を見つけ出すのかもしれない。
ユイをもっと幸せな子どもに育てたい。
夫ももっと幸せにしたい。
私ももっとワクワクしたい。
それはきっと、「夢」という形で、
幸せな連鎖になって行くような気がする。
「大丈夫。佐藤さんはできますよ」
コーチの声を信じて、
私自身を信じて、
私の毎日を輝かせられるように全力で、
人生を走ってみたいと思う。
私は、どこまでたどり着けるかな。